活動報告

石炭火力発電の輸出政策の見直しが正式に決定しました

本日、大臣就任以来取り組んできた石炭火力発電の輸出政策の見直しが正式に決定し、今後は「原則支援しない」ことになりました。国際社会に対してもパリ協定に貢献する日本の揺るぎない姿勢が伝わる、画期的な政策転換が出来ました。
以下は臨時記者会見での冒頭発言の全文です(長いですが読んで頂けたら嬉しいです)。
今回の変更は、先週発表があった国内の石炭火力発電プラントのフェードアウトと併せ、長い間からまって動かなかった日本のエネルギー政策に穴があき、脱炭素化に向かうことを意味する、大きな一歩となりました。
今後は実行に向けて、環境省としての役割をしっかり果たしてまいります。

—臨時記者会見での冒頭発言の全文—

インフラ海外展開に関する新戦略骨子が取りまとめられました。この中で、石炭火力発電の輸出について新たな方針を盛り込むに至りましたので、報告をしたいと思います。
まず結論から申し上げますが、石炭火力発電の輸出に対する公的支援については、相手国のエネルギーを取り巻く状況・課題や脱炭素化に向けた方針をしっかり把握していない国に対しては支援しないことを原則とする、と変更しました。
新戦略は、ご案内のとおり、重点的に輸出を推進するインフラについて明記するものです。そういうもの中に、石炭火力発電については、「支援しないことを原則とする」 という「支援しない」という方針を書き込むという異例の決着をみました。新戦略の骨子の中に「支援をしない」ものを書いたのはここだけです。ここが最も重要な点ですので、冒頭まず、結論を申し上げました。
今日は、私が環境大臣に就任以降、石炭火力発電の輸出に関する政策見直しに 至るまでの一連の経緯、そして私としての想いを述べた上で、今回の成案についてご報告いたします。

まず、経緯について簡単に述べたいと思います。私が環境大臣に就任直後、ニュ ーヨークで行われた国連総会で、気候変動とエネルギーを巡る世界の話題の中心は日本ではほとんど話題になることがない石炭火力発電であり、日本の石炭火力を巡る対応についての批判の大きさも感じました。このときから、石炭批判で覆われているせいで、本来であれば評価されるべき、日本の取組や努力が伝わっていない現状を変えたい、そして日本イコール石炭ではなくて、環境先進国日本の復権に向けた風穴を開けたいという想いを強くしました。
昨年12月COP25で、早速その機会が訪れました。5年連続で温室効果ガスの排出削減を実現していること、TCFD、SBT、RE100 の取組は日本が世界でトップクラスであること、 そしてフロン、フロオロカーボンイニシアティブを立ち上げることや日本企業の技術や日本国民が一丸となった努力、イノベーション、様々な日本の取組で伝えたい事は数えきれないほどありましたが、こうした日本の取組を世界に届けるためにも避けて通れないのが、石炭火力の問題でした。
私がステートメントで何よりも強くこだわったのは、世界から批判されている石炭火力の問題から逃げない、ということでありました。
とりわけ、途上国に石炭火力発電の輸出を推進し、相手国のエネルギー構造をロ ックインさせることを日本として公的に支援をしている、パリ協定の目標達成に向けた整合性が全く見えないまま、世界最高効率だということをもって、国際社会の批判を増幅させながら、輸出を推進しているという現状は、日本にとって得るものより失うことの方が圧倒的に大きいと思っていました。
残念ながら、その時は石炭政策については新たな展開を生むには至りませんでした。批判も大きかったです。ステートメントを述べた夜、マドリッドでの内外記者会見で、私は、「我が国のインフラ輸出の在り方については今後も引き続き議論していく。これで終わりではない。働きかけを続けていく。」と述べました。
今年に入って1月に、ベトナムにおけるブンアン2という、今回の4要件見直しに至るきっかけとなった事業がありました。この件は、既に首脳レベルで推進することが合意されていたことから実施することとなりましたが、この件をきっかけに、国会でもかつてないほど石炭火力の問題が議論され、メディアの皆さんにも関心を持っていただいて、関係省庁とも調整をした結果、2月 に「石炭火力輸出支援の4要件の見直しについて、次期インフラシステム輸出戦略骨子に向け、関係省庁で議論をし結論を得る。」ことで合意をしました。
早速、3月にはファクト検討会の立ち上げを表明し、4月から、国内外の最新の知見をはじめ、中立、客観的に ファクトを洗い出していくファクト検討会を開催し、座長の高村先生はじめ、委員の皆さんに、まさに4要件の議論の土台をつくっていただきました。好き嫌いや思い込みや、イデオロギーをふりかざして対立するのではなくて、現実を直視してファクトを積み上げていくその作業が、今回の見直しにつながったと認識しています。
先週、梶山経済産業大臣から、国内の非効率な石炭火力のフェードアウトについて、より実効性のある新たな仕組みを導入すべく、今月中に検討を開始し、取りまとめるよう事務方に指示した」と発表がありましたが、今日石炭火力発電の輸出政策についても、梶山大臣はじめ関係省庁間で議論した結果として、大きく前進させることができました。
日本はパリ協定に基づく長期戦略において「今世紀後半のできるだけ早期に 『脱炭素社会』の実現」を目指すこと、そのために「パリ協定の長期目標と整合的に世界のCO2排出削減に貢献するエネルギーインフラの国際展開」を進めていくという方針を掲げています。
途上国のNDCを見ていくと、2030年に現状の2倍、3倍の温室効果ガスが排出される国もあります。長期戦略も、日本は策定していますが、ほとんどの途上国は策定していません。こうした国々に対し、長期的な視点を持ちながら実現可能、 かつ、実効性のあるプランを提案するなど、相手国の発展段階に応じたエンゲージメントを強化していきます。「寄り添う」、「伴走する」というイメージです。さっそく、ベトナムとの政策対話を準備しているところであり、具体的な協力に向けた対話を開始したいと思います。
具体的には、関係省庁が連携しながら、再生可能エネルギーや水素、CCUS やバイオマスやアンモニア混焼技術等の、CO2 排出削減に資するあらゆる選択肢の提案や脱炭素化に向けた政策の策定支援を行う「脱炭素移行政策誘導型インフラ輸出支援」これを基本方針とします。この基本方針は脱炭素移行を後押ししなければダメだということです。
その上で、脱炭素化に向けた方針等を十分に把握出来ない国での今後新たに計画されるプロジェクトに対しては、支援しないことを原則とすることにしました。
これら基本方針及び原則は、ファクト検討会の分析レポートから読み取れる、我が国のインフラ輸出は、売れるから売る、ではなくて、脱炭素化へ向けた移行の一環でない限り輸出しないとする、いわば「脱炭素化原則」を形にしたものと考えています。
この「支援を行わないことを原則とする」とした部分については、私としては徹底的にこだわりました。この部分の書きぶりですが、「エネルギー政策や環境政策に係る二国間協議」という表現、そして「相手国のエネルギーを取り巻く状況・課題や脱炭素化に向けた方針を知悉(ちしつ)」、といった表現があります。
ここで「エネルギー政策や環境政策に係る二国間協議」ということについては、エネルギー政策だけではなくて、環境政策もしっかりと見ていく、そういった意味であります。
また「相手国のエネルギーを取り巻く状況・課題や脱炭素化に向けた方針を知悉(ちしつ)」という、普段ほとんどみない、「知悉」という漢字二文字が入っています。この「知悉」という意味は「ある物事について、細かい点まで知りつくすこと」という意味。相手国の脱炭素化に向けた方針を単に知っていればいいという意味ではなくて、まさにこの言葉の通り、そこについて細かい点まで知り尽くすこと。今後新たに計画されるプロジェクトが脱炭素化に向けた移行の一環であるかどうかを細かい点まで把握する。そういう運用を環境省としてもしっかり対応していきたいと考えています。そのため、環境政策に係る二国間協議である「環境政策対話」の場を積極的に活用していきます。
この環境政策対話では、気候変動対策のみならず、広く環境問題全般について意見交換をする場です。仮に新規石炭プロジェクトの話しがあった場合、大気汚染の観点、自然環境の観点や、地域を重視する環境省としては地域住民・コミ ュニティの観点など広く意見交換を通して、持続可能な社会に向けた責任ある態度で接していきたいと考えております。
このように、文言一つ一つにこだわり、それが実効性を高める形で成案を得られるように、調整を進めてまいりました。
その結果、今このスライドでお示しをした通り、この本来の柱でもある所謂4要件の厳格化について、改めて触れたいと思います。どのように厳格化が変化したのか。

一つ目、「エネルギー安全保障と経済性の観点のみ」を求めていたのが今まででした。そのことに加えて今回何が変わったかというと、エネルギー安全保障と経済性の観点に加えて脱炭素化というのが前提にならない限りダメだとしています。
二つ目、「我が国の高効率石炭火力発電への要請があれば」、ということですが、今回新しく加えたことは、仮に我が国の高効率石炭火力発電への要請だったとしても、「脱炭素移行の一環」でなければダメとしました。
三つ目、「相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形であること」、という用件は、相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形ではなくて、「パリ協定の目標達成に向けた政策や対策が継続的強化をされること」、それを今回は要件にしました。
そして最後四点目は、「原則、世界最新鋭であるUSC(超々臨海)以上」、今までの要件は、「常に最新の環境性能とする要件」。USCであっても最高効率でないものもありますので、そういうことも含めて、常に最高効率でなければならない。

こういった4要件に変更することで、調整が決着。今までの要件に加えて相当徹底した厳格化がなされました。
以上のように相手国のエネルギーを取り巻く状況、課題や脱炭素化に向けた方針をしっかり把握していない場合は、支援しないことを原則とするという転換をすることが出来ました。
今後関係省庁と連携をしながら、世界の脱炭素化に向けた取組をしっかりと進めていきたいと思います。
そして最後になりますが、環境省では、今回の改正を「絵に描いた餅」にすることがないよう、具体的なアクションとして、政策対話から案件形成に至るまで、途上国の脱炭素移行に向けた一貫支援体制を構築します。さらには、民間企業や自治体、金融機関などとも 連携して環境インフラの海外展開を推進するため、民間企業への情報共有やビジネスマッチング、案件形成支援に至るまでトータルでサポートするための官民連携のプラットフォームを設立し、より日本の脱炭素技術やノウハウが活用される ように官民一体となって取り組んでいきたいと思います。
早速、ベトナムとは政策対話の実施に向けた調整を始めています。関係省庁や 関係機関とも連携しながら、相手国のニーズに即し、脱炭素化に向けた政策策定支援から、CO2削減に資するあらゆる対策の提案・実施に取り組んでいくことで、世界の脱炭素化に貢献していきたいと思います。

最後に、私のような手の焼ける大臣と最後まで向き合って調整に努力をいただいた梶山大臣をはじめ経産省の皆さん、ありがとうございました。そして関係省庁、ファクト検討会委員及びヒアリングに協力いただいた企業・団体など、これまでにこの議論に関わってきた関係者全ての皆さんに感謝を申し上げたいと思います。うちの事務方も大変だったと思います。ありがとう。
以上です。